2010年5月25日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.1

蹄が2つに分かれている動物が罹る口蹄疫(FMD Foot-and-Mouth disease)が、
宮崎県の牛を中心に流行しています。
大手メディアだけでなく、
個人のブログやtwitterなどでも取り上げる人が多いことから、
皆さんの関心が高いことがわかります。

今回は、そのFMDの何が問題なのか、
そして今後何をしていったら良いのか
ということについて書いてみたいと思います。


口蹄疫という名前の由来は、
口の中や蹄の付け根などの部分に水疱が出来るところから来ています。
「疫」というのは疫病、すなわちうつる病気だということです。
症状としてはよだれが出て元気がなくなる等の症状があります。
人間で言えば原因ウイルスは違いますが、手足口病のような症状でしょうか。


感染力が強く、罹った動物は肉質が落ちる、
乳の出が悪くなるなどの理由で、
経済価値が下がることが大きな問題です。
成体では死に至ることは少ないのですが、
幼体だと半数が死亡するという報告もあります。

ではFMDはヒトに関してはどうなのでしょうか。
FMDに罹った動物に接触することにより
人間が感染源となることがある、との報告がありますが、稀です。
また、FMDに罹った動物の肉を食べても
ヒトにうつることはありません。
ですから、人体への影響はまずないと考えて良いでしょう。


日本では1899年に茨城県、1908年に関東甲信越地方で発生があり、
近年では2000年3月に宮崎県で起こりました。
世界的に最も口蹄疫に苦しめられたのは英国ではないでしょうか。
1967年、2001年、2007年と過去3回の発生を経験し、
特に2001年には大きな経済損失とともに、
政治的な乱れも生じました。


FMDは国際獣疫事務局(OIE)に届け出が義務付けられています。
感染した恐れのある動物が存在する群全てを殺す
という方法が我が国でも取られつつありますが、
それをやった英国はおそらく何とか口蹄疫を征圧しようと、
苦渋の選択として行ったのではないか、
と考えられます(CDC獣医師よりのコメント)。
すなわち効果があるとかないとかといった話では無いようです。


では、感染した動物の周りの群全てを殺すことが、
国際的に決められているのかといえばそうではありません。
制圧の方法はその国の事情に任されています。
しかしながら、殺す事をせずにいれば、
国際的にFMDフリーであるという認証が遅れることから、
現在の日本でも全頭を殺すという方針になっています。
ワクチンは100%効果的ではないとともに、
ワクチンを使用することにより、
FMDフリーの認証を与えられる期間が
先送りされるという問題があります。


これが世界を取り巻くFMDの状況ですが、
実際には多くの問題が生じます。
まず、全頭処分には労力もお金もかかります。
現場のマンパワーでどこまでまかなえるか、
というのが大きな問題です。
また、現在ワクチンを使用していますが、
ワクチンを打つ手間と同時に、
ワクチンを打つと症状が分からなくなる
と言う不利益も生じます。
また、国際的には、FMDフリーの認定が遅れ、
貿易上大きな障害となります。


我が国には、上記に加えて特別な因子があります。
それは、我が国が誇る和牛のブランドの維持という問題です。
海外から和牛の質は高く評価されています。
しかしその質を保つためには純血の種牛が必要です。
種牛を殺してしまうことにより生じる損失は、
経済的な側面だけでなく文化的にも大きな痛手を与えます。


繰り返しますが、FMDのヒトへの影響はまずありません。
現場の許容量(獣医師などのスタッフが大きな問題)、
経済的因子、和牛という国際的に特別のブランド等を考えると
これらの様々な条件を鑑みて、
何が最良の方法かを探る必要があると考えます。
その中には全頭処分だけではなく、
まだ罹患していない家畜を残す、ワクチンは止める、
等のオプションも含まれて然るべきだと思います。


感情論で考えたり、対外的あるいは政治的な側面ばかりを追って
現場を疲弊させてしまってはいけません。
目的は感染の広がりを如何に効率的に抑えるかであって、
現場を消耗させ、経済的なダメージを与えることではありません。
それが昨年のH1N1豚インフルエンザ騒動から
生かさなければならない教訓なのではないでしょうか。

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