2013年4月26日

Evil eye and unequal hand ~インフルエンザ特措法



インフルエンザ特措法に関しては、前回のブログでもご紹介しましたが、重要な問題なので、再度取り上げます。


インフル特措法 「新型」流行への備えを万全に(4月14日付・読売社説) 
従来にないタイプのウイルスが大流行を引き起こす新型インフルエンザの発生に備え、特別措置法が施行された。 新法を踏まえ、政府や自治体は流行防止への体制整備に万全を期すべきだ。 新型インフルエンザは、鳥や豚の体内にあるウイルスが突然変異し、人から人へ感染しやすくなったものだ。免疫を持つ人がいないため、爆発的に流行し、多くの死者が出る恐れもある。 中国の上海周辺や北京で鳥インフルエンザウイルスの人への感染が問題となっているが、人同士の感染は確認されていない。現時点では、新法が規定している新型インフルエンザには該当しない。 しかし、警戒は怠れない。早期に体制を整えるため、政府が前倒しで特措法を施行したのは、適切な判断と言えよう。 2009年に新型インフルエンザが流行した際、集客イベントの開催などを巡って県や市町村の対応が異なり、混乱が生じた。 特措法は、こうした教訓から制定された。政府や自治体に行動計画の策定を義務付けた。新型インフルエンザの発生で大きな被害が予測される場合には、首相が緊急事態を宣言し、行動計画に基づく対策が講じられる。 ポイントとなるのが、知事の権限で学校や幼稚園を休校・休園にすることだ。劇場や博物館、百貨店などに対しても、営業制限や一時休業を指示できる。従わない場合は、施設名を公表する。 1か所に多くの人が集まると、感染が広がりやすい。経済活動が制約されることになるが、やむを得ない措置だろう。 だが、長期化すれば企業経営や景気などに影響が出る。制限は必要最小限にとどめるべきだ。そのためには、ウイルスの毒性の強さなどを正確に把握し、危険性を見極めることが重要になる。 医薬品や食品などの安定供給のため、国や自治体は、業者から物資を強制的に供出させることもできる。大地震などの災害時にも応用できる措置と言えよう。 特措法は、効率的なワクチン接種も求めている。医療関係者や鉄道、電気、ガス事業などの従事者に優先接種する。社会活動を維持するためには、必要な対策だ。 ただ、ワクチンは、発症や重症化の割合を減らすものの、感染自体を防ぐことはできない。 手洗いを励行する。症状の兆しがあれば外出を控える。政府が感染防止の注意点を国民に周知することが、まずは大切である。
(2013年4月14日01時37分  読売新聞)

今までヒトに感染したという報告の無い、H7N9インフルエンザが、中国を中心に広がっています。これを受けて、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下、「特措法」)が、2013年4月13日、前倒しで施行されました(2012年5月11日公布)。
特措法の基本は、「検疫で、インフルエンザの国内発生を食い止める」です。インフルエンザは風邪と同様に、口や鼻からウイルスが侵入することによって起こります。検疫所が行っているのは、サーモグラフィーという機械を用いて、熱がある人を発見し、国内に病気をもちこまない、ということです。今回のインフルエンザが指定感染症になれば(なるのは時間の問題ですが)、感染した人が見つかった場合、感染の疑いもある人を含めて、隔離・停留が出来ることになっています。

そもそも、インフルエンザを、このような方法を用いて「水際」で防ぐことが出来るのでしょうか。サーモグラフィーは体表温度を測るものですから、その設定温度によって、暑い部分が赤くでます。例えば、実際、熱があること以外にも、暑い外気温にさらされたり、アルコールを摂取したりしても赤くなります。また逆に、熱があったとしても表面温度が高くなければ、機械で検知されないこともあります。
それから、インフルエンザには「潜伏期」がありますから、症状が出ていない時期に感染者を見つけ出すことは不可能に近いといえます。実際、2009年のH1N1豚インフルエンザ流行の際には、成田空港において348万人のサーモグラフィチェックを行い、発見されたのはわずか10名でした。この結果を元にしたシミュレーションでは、空港で8名の患者が発見される間に、感染者100名が通過しているという結果も出ています。

水際作戦とはそもそも軍事用語であり、軍事的に効果が無いことは、硫黄島において栗林中将が自ら証明しています。
また、感染症対策においても、14から15世紀に流行したペストでは、汚染国から来た船を40日間沖に留め置きました。これが検疫quarantineの語源となってます。しかしながら、どの国もペストの脅威から免れることは出来ませんでした。
また、特措法に謳われている人の移動の制限や、国境閉鎖、学校閉鎖、集会の禁止なども、インフルエンザを含む感染症に風向だという科学的根拠は得られていません。

特措法は、小松秀樹氏が指摘するとおり、「国に巨大な権限を与えると、インフルエンザから国民を守ることができるという妄想」の元に作られています。インフルエンザである限り、H7N9は日本に入ってくるでしょう。そしてある程度の広がりを見せて、終息してゆきます。最も重要な対策の基本は、その被害の程度を抑える事にあります。すなわち、重症化を出来る限り防ぐことです。インフルエンザに罹って重症化しやすい人は、小さい子ども、高齢者、免疫機能が低下している人達です。これらの人達が、必要なときに、滞りなく医療サービスを受けられることがインフルエンザ対策の第一義であり、科学的根拠に基づかない検疫強化ではありません。

検疫は、検疫法に基づき行われます。これによれば、「隔離」とは英語のquarantineとほぼ同義で、有症者だけでなく、感染した恐れのあるもの(たとえ検査が陰性の健常人も含む)を、検疫所長の権限で留め置くことが可能です。この権限は、人の自由を制限する、すなわち基本的人権に関わる大きな権限です。

1900年、米国カリフォルニア州、サンフランシスコ市で、中国人コミュニティから数人のペスト患者が発生しました。この際、中国人というだけで隔離の対象となり、人道的にも経済的にも大きなダメージを生みました。米国連邦裁判所はこの措置に関して、「偏見に基づく違法な行為」としています。

繰り返しますが、インフルエンザを水際作戦で抑える、という科学的根拠はありません。そのような不確かな手法に対して、人権侵害をも引き起こす、「隔離・停留」という権力行使を許容する今回の措置法は、全く持ってナンセンスであり、廃止すべきであると考えます。
また、特措法の中心をなす検疫法は、昭和初期の時代遅れの法律であり、措置法の廃止とともに、検疫法の速やかな書き換えも、喫緊の仮題です。



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