2014年10月15日

エボラ出血熱~感染症危機管理の立場から~(2)


 前回は、病気の症状、治療、予防に関して書きましたが、今回は、エボラ出血熱に対して、国としてどのように対応すべきなのかを論じることにします。
 大きな命題として、“我が国のエボラ熱対策に問題があるかどうか”という事があげられます。それに対しては、「非常に問題がある」と言わざるを得ません。感染症専門家の不足、感染症病棟の不足、水際対策の不徹底、など、様々な問題点が指摘されていますが、最も大きな欠陥として、「我が国には危機管理の概念がない」という事だと思います。言い換えれば、「平時」と「有事」の区別ができていないという事です。具体的にどういうことなのか書いてゆきます。
 エボラ出血熱をはじめとする感染症は、感染症法という法律で規制されています。感染症の中で、我が国に通常存在しないものに関しては、外来感染症として検疫法でも縛られています。エボラ出血熱の場合、感染症法では感染症類型1に、また、検疫法では一塁感染症に位置づけられています。これは厚労行政において、どのような意味を持つのかといえば、検疫感染症が外国で発生している場合は、検疫所、すなわち厚生労働省が主体となって、その対策に当たるという事です。もっとわかりやすく言えば、検疫官が防護服に身を包んで、サーモグラフィーという表面温度をはかり、「水際で食いとめ、国内には絶対に入れない」とする対策です。
 しかし、感染症には潜伏期間があり、空港で食い止めることは不可能です。14~15世紀に世界的に大流行したペストの際、イタリアの海岸線で、流行地から来た船を40日間停めおきましたが、ペストから逃れた国はありませんでした。船が主要な運輸手段であったペストの時代、感染症の流行が起こると、次の流行が起こるまで、4,5日の猶予がありました。ところが今や航空機が主流ですから、48時間以内に世界中に移動できます。このような状況で、感染症を水際で防ぐという事が、いかに困難かという事がおわかりになると思います。
 当然、検疫をすりぬけ、国内発生が起こるわけですが、ここでの主体は、厚生労働省ではなく、地方自治体になります。それは、国内では検疫法は適応されず、感染症法に法って、地方自治体が主導となるからです。代々木公園でのデング熱発生の際、防護服を着用して消毒作業を行っていたのは、東京都の職員というのが、わかりやすい例でしょう。
 繰り返しますが、エボラ出血熱には潜伏期がありますから、検疫所に黄色のテープを張って食い止めるというのは限界があります。もしひとたび国内で発生すれば、非常に大きな問題となります。国内の問題にとどまらず、国際的にも大きな問題となるからです。観光客の減少などで経済にも影響する可能性があります。
 エボラ出血の様に感染力も強く、致死率も高く、(今回の流行では49%)、確立された治療法も予防法もない感染症が発生したら、国家の危機といえる状況を引き起こしかねません。ところが、こうした不測の事態に対応する現状は、国外法(検疫法)と国内法(感染症法)という縦割り行政であり、一元化された危機管理体制にはほど遠いものです。水際対策の重点化を進めるよりも、感染症を“国家危機”の一つととらえ、系統だった指令体系を構築することが最も重要です。

 私たちは近頃、新型インフルエンザ(2009年)流行を経験しました。WHOからも非難された水際作戦を見なおし、国民を真に健康被害から守るという、厚労省本来の役割を遂行すべき時であると考えます。